ゲーム『カカオ農園』で触れた品種・産地・発酵・乾燥・精選を、実際の製法と情報源とともに、もう少し深く。チョコレートは嗜好品。ここでは味・香り・産地・製法・物語の話だけをします。
← ゲームに戻る「Bean to Bar」とは、カカオ豆(Bean)から板チョコ(Bar)まで、一つの作り手が一貫して手がける作り方のこと。豆の選定・焙煎・摩砕・調合まで自分たちで設計するから、産地や製法の違いがそのまま味に出るのが面白いところ。
ゲームでは、農園での収穫 → 発酵 → 乾燥 → 精選 → 出荷という、チョコになる前の「豆づくり」の工程を体験します。実はこの前半工程こそ、最終的な風味の土台をつくる最重要パート。コーヒーやワインと同じく、同じ品種でも土地と手仕事で味が変わる──それがカカオの世界です。
すべては、小さな花から始まります。カカオは枝先ではなく、幹や太い枝に直接 花を咲かせる──「幹生花(かんせいか)」という珍しい性質を持っています。
花は直径1〜2cmほど。白い5枚の花びらが星のように開き、中心に赤い葯柱(やくちゅう)と細い筋が走る、繊細で愛らしいつくり。受粉を担うのは、ハチではなくヌカカ(小さな羽虫)だといわれます。
一本の木は年に何千もの花を咲かせますが、実(カカオポッド)になるのはそのうちのごくわずか。受粉に成功した花だけが、数か月かけて大きな実へと育ちます。だからこそ、一粒のカカオは貴重なのです。
カカオ(学名 Theobroma cacao)は、伝統的に大きく3〜4系統で語られます。近年の遺伝子研究では「3分類は単純化しすぎ」という指摘もありますが、味の方向性をつかむ入口としては今も有効です。
世界の生産の 5%未満とされる希少種。苦みが少なく、果実的で華やか、繊細な香り。栽培は難しく収量も低い。ベネズエラや中米などに点在。
世界生産の 約80〜90%を占める主力種。力強く、苦み・渋みがはっきり。丈夫で多収。西アフリカや東南アジアの大量生産を支える。
18世紀にトリニダード島でクリオロ×フォラステロから生まれた交雑種。両者のいいとこ取りで、果実・花・スパイスなど土地ごとに表情が豊か。マダガスカル等の銘柄に多い。
エクアドルを象徴する系統。花のような独特の香り(“Arriba”)で知られる。純粋な個体は希少で、近年あらためて見直されている。
テロワール──土壌・気候・標高・その土地の手仕事の総体が、ワインと同じようにカカオの味を決めます。火山島で育った豆と、熱帯雨林で育った豆は、別の表情になる。ゲームの5産地は、それぞれ実在の産地像をモデルにしています。
日本国産の希少なカカオ栽培。亜熱帯の島の気候で、量は採れないが物語性が高い。Tribal Cacaoの原点。
西アフリカ熱帯。世界のカカオを支える主産地で、フォラステロ系の高収量が持ち味。まずは量を回す土地。
赤道直下。ナシオナル=“Arriba”の花のような香りで知られる銘醸地。
乾湿のはっきりした熱帯。サンビラーノ渓谷のトリニタリオは、明るい赤系果実の酸が有名。
クリオロの故郷。チュアオに代表される、世界でも指折りの繊細で香り高い豆を生む。最難関にして最高峰。
摘んだばかりの豆は、白い果肉(パルプ)に包まれていて、まだチョコの香りはしません。風味の素は、発酵で生まれます。
パルプの糖を酵母がアルコールに変え、続いて乳酸菌、さらに酢酸菌がアルコールを酢酸へと変えていく。発生する熱と酸が豆の内部にしみ込み、糖・ペプチド・アミノ酸が、のちの香り・味の前駆体へと組み替えられます。豆の山の温度は50℃近くまで上がり、酸性度(pH)も日々動く。切り返し(turning)で空気を入れることが、この菌のリレーを健全に進める鍵です。
中南米で広く使われる方式。段差に並べた箱から箱へ豆を移して切り返す。まとまった収穫量が必要だが、管理しやすく品質が安定しやすい王道。
東南アジア・中南米・西アフリカの小規模生産でも使われる、籠やバケツでの発酵。小回りが利く。
西アフリカの伝統。地面に豆を山積みし、バナナの葉で覆って発酵させる。素朴で道具いらず、土地の風土が出やすい。
竹のトレイに約10cmの厚みで広げ、積み重ねる。隙間から空気が通るので、切り返しが少なくて済むのが利点。短期で仕上がりやすい。
仕込みに種菌(スターターカルチャー)を使い、発酵を安定させ・狙った方向へ導く研究も進んでいます。
発酵した豆は水分が多く、そのままでは保存できません。乾燥で水分を抜き、保存性を持たせると同時に、発酵で生まれた酸(とくに酢酸)を適度に飛ばして味を整えます。ふつう6〜10日かけてゆっくりと。
もっとも一般的でシンプル。きちんとやれば良質な豆になる王道。ただし雨に弱いのが弱点。
地面から上げた棚(網)の上で乾かす。下からも風が通り、ムラなく乾く。天日のクリーンさはそのままに効率が上がる。
透明屋根の温室型。太陽熱を使いつつ雨に当てずに乾かせる。天候に左右されにくいのが強み。
雨の多い土地で使われる火力乾燥。速いが、煙が豆に触れると“スモーキー”な異臭がつく難しさがある。2012年にはカメルーンの大量のカカオが、煙の汚染でEUに拒否された例も。煙を豆に当てない設計と、つきっきりの火加減が要る。
乾いた豆は、欠けや未熟・カビ豆を取り除く精選(ハンドソート)を経て、はじめて出荷の品質になります。発酵・乾燥が十分かを見るのがカットテスト──豆を半分に割り、断面の色と筋目を見る検査です。よく発酵した豆は内部が褐色に割れ目立ち、未発酵だと紫やスレート色が残ります。
こうして仕上がった豆に評点(D〜S)がつき、出荷先が選べるようになります。同じ畑の豆でも、発酵方式・乾燥方式・天気・手入れの差で、評点は大きく動きます。
この資料館の内容を確かめ、さらに深掘りするための外部資料です(多くは英語)。